古典芸能の中に見つける「還暦」

還暦と能楽

室町時代に始まり、600年以上の年月を脈々と受け継がれてきた舞台芸術で、日本の伝統芸能の一角を成す能楽。

囃子や地謡と呼ばれる、これまた日本古来の独特の音楽に合わせ、役者が舞台で舞うというものですが、 同じ伝統芸能の歌舞伎とは違って、動作や感情表現が最小限に抑えられている点が大きな特徴です。

この能楽の中に、還暦を過ぎた役者でなければ演じることが許されないできない演目があります

正確にいえば、ある演目の中の役柄の一つに、「還暦以上の役者が舞う」ことを定められている役柄があるのです。

その演目の名前は「鷺(さぎ)」。そのストーリーはというと…。

還暦以上が舞う能とは

白サギ

『ある日、時の帝が夕涼みに出かけた先で一羽の白サギを見つけます。その美しさに心ひかれた帝は家来に白鷺を捕えさせようとしますが、白サギはそれを察して飛び立とうとします。

そこで家来が帝の命令であることを白サギに告げると、なんと不思議に白サギが舞い降りてきました。

それを喜んだ帝は家来と白サギの双方に「五位」の位を授けます。それが「ゴイサギ」の名前のいわれとなりました。

そして新しい名前をもらった白サギ改めゴイサギは帝に許され、再び天高くへと舞い上がっていきました。』

還暦ならではの円熟で舞う主役

還暦と主役

ちょっと不思議なストーリーですが、昔の人々にとってはなかなかの感動物語だったのかもしれませんね。

この話に登場する白サギが何を隠そう、還暦以上という年齢制限のある役柄

ただ、例外的に少年ならば演じても良かったようなのですが…「二十歳で成人」という現代社会と違い、この作品が生まれた当時の成人(=元服)は12~16歳という年齢。

当然、その頃に“少年”ということになると、それに該当する期間はごくわずか。

しかも、白サギはこの「鷺」という演目においては堂々たる主役!当然、余りに幼い役者ではとても舞うことはできません。

もちろん、昔は日本人の平均寿命も短かったため、還暦以上の年齢の能役者も決して多人数いたわけではないでしょうが、その経験や磨いてきた技術を考えれば、子役が演じるよりもはるかに味わい深く優雅な鷺を舞うことができたことでしょう。

もしかすると、そのへんまでも計算して昔の人はこの役に年齢制限を設けたのかも。そう考えると、還暦という年齢はやはり、人間としての円熟の年齢と考えてよさそうですね。

昨今では、還暦というと「これから新しいことを始める節目、第二のスタート」という意味合いも強くなっています。還暦をきっかけに能を始めてみるというのもよいかもしれません。

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